AMF2019

そういえば、AMF2019について書いていなかったので、メモ代わりに書いておきたいと思います。今年の7月初旬に東京で開催され、週末の二日間の公演に行きました。すでに数年間、アジアン・ミーティングを見てきていますが、アジアの演奏家たち、伝統楽器を使う人たち、という以上に、さいきんでは新しい音楽のシーンや、未知未踏の試みが行われている場所としてのアジア各地域からの音楽家たちが集まるイベントとして、たいへん楽しみで、かつ注目しています。(ちなみに去年は台北で、一昨年は、日本で、東京というよりも全国で、札幌国際芸術祭にあわせるように企画ツアーでした) 

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ゲーテ・インスティチュートでの公演後の、シェリル・チャンのセッティング。ミキサーに植物が刺さっている

とはいえ、個人的にはあまり客観的な感想はもてないところがあり。何より台北からシェリル・チャンが来て、それについては紹介のブログも書きましたし、多少は貢献したかなと思うところもありますが、とにかく彼女が忙しくて気が気でなく、来日中も謎の多忙さで倒れないかと心配するほどの中だったので、そのことばかりが頭にあります(実際、7月下旬から台北で2週間近くアーティストを共同生活させて合作するワークショップに参加し、8月末からはドイツやイギリスをめぐる一ヶ月近くの公演ツアーに進んでいきます。どちらもコレクティブlolololとしてで、コンセプトに必要な膨大な書籍と図版を用意する必要に追われていたようです。他にも仕事などもあり、早朝に起きてやっていたとか)。

じつはメッセンジャーで連絡も取っていて、来日中も台北のシャと三人で、フューチャータオ打ち上げ一周年の歓談などもしていたのですが、これまた、AMFのキュレーターが録音作業の拘束で逃さず。結局、シェリルさんは初来日で、秋葉原も新宿もお台場も見ないまま、谷中の墓地と渋谷のドミューンだけ見て、東京から帰っていったようです。もうちょっと自由時間があっても良かったのに・・・とか、とにかく気が気でないまま時間が過ぎて行きました。普通は写真も撮るのでしょうけど、実際は公演最終日に2枚しか撮らず。かなり珍しい体験でした。なので、先立つ感想は、無事に終わって何よりですという感じでしょうか。良かったよかった

ともあれ、主観的な話はさておいて。実際に見た公演も素晴らしいものが多かったように思います。

まず参加メンバーが、大変豪華でした。セニャワは有名だから別として、シェリルさんもコレクティブを主宰していますが、他の参加者も多くが独自のユニットやコレクティブを運営したり、あるいは独自の楽器を操るなど、どれも特筆に値します。これまで調べたところをまとめてみましょう。

 

まず、インドから、セルジュークR。鋭い音響的なサックス奏者で、ノイズの中でも適応できるその演奏の切れ味は度肝を抜かれましたが、それだけではなく、実際に場所も運営しています。カヌールにある、フォープレイ(Forplay)という場所を運営していて、フリージャズから何から何まで、ごった煮の即興イベントをやっています。どちらもfbにページがあります。

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fbから。フォープレイの風景

バンコクから、ダンストラックとノイズを操るピスタクンは、ネイバーズ・コレクティブ(Neighbours Collective)という、音楽だけでなく演劇や体術までジャンル混淆のコレクティブの中心人物で、このコレクティブはアメリカやジョグジャカルタにも進出。また、企画も運営しています。フェイスブックの記録を見ると、このネイバーズ・コレクティブはある意味でアジアのハブで、セニャワのメンバーやセルジューク、昨年のAMF台北に参加したMeuko!Meuko!などと交流、イベントをしています。日本からだと、現在バンコク在住の篠田千明さん(快快)が交流があるようです(繰り返しですがジャンルは混淆です)。バンコクは現在、ヨーロッパとアジア各地域の人が集まる(特に現代アートの)刺激的な場所になっていて、そこで際立つ人物の1人という具合でしょうか

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ネイバーズ・コレクティブがボストンに出店した時の写真。fbのページから

またシンガポールからダーマ・シャーン、現在フェスのPlayfreelyでもオーガナイズで活躍しているバンド、オブザーバトリーにいたこともある変則ギタリストで、テーブルトップというか膝の上にギターを横にして(ラップトップ?)長い櫛のようなものをいくつも刺した、かなり目に付くプリペアド・ギターを(主に弓弾きで)演奏します。金属がきしむような音響が得意なようですが、凄腕のギタリストでバンドを統御できる力がある、才能ある音楽家というべきでしょう。

 

そしてベトナムハノイからング・トラ・ミィ。実は去年の台北でのAMFにも出演して大友さんとの2人で共演が強く印象にある、伝統楽器だけど現代的な即興もする女性の奏者です。楽器はなんと弦が一本しかない琴のようなもので、弾いたりこすったりして、他の楽器と遜色ありません。しかし、何より強烈なのはその声で、鳥獣の叫びかのような甲高く巨大な声を出します。これが現代的なインプロユニットの中では強烈に機能して、一気にハードコアパンクのような大騒ぎを生み出すことが可能。アカデミックにも、ポップやパンクの志向にも耐える音楽性と力を持っています。やはり要チェックです。

というメンバーを中心に、公演が行われました。

感想については冒頭に書いたように気が気でない感じだったので正直あんまり覚えていませんが、初日のドミューンの映像を見て、成功をすでに確信したようなことを記憶しています。全員が猛者でしたし、もちろんシェリル・チャンも環境音とノイズできちんと立ち位置を見せていました。ここでかなり一安心したのも事実で、次への期待が高まりました。

 

金曜日の公演は、やはり気が気でなく、入り口であったシェリルさんはすでに体力が削られていてすごい顔をしていましたし、会場の二階奥では大友さんが寝ているし(あえて声をかけようと思いましたが、それさえ出来ないほどの寝方で)、おまけに観客もたくさんいて会場は立ち見で満杯でした。

内容は、ノイズがいくつかのジャンルの間の潤滑油のように溶け込んで、演奏者各人が自由に自らの奏法を発揮できるような、そうした場になっていたように思います。インプロ的な演奏だけだと、なかなかテクノやヒップホップは入り込みにくいかもしれませんが、ノイズが鳴っているとそれを背景に、あるいは踏み台にして、色々なジャンルの人が参加できる。これは、去年の台北でも見られたところですが、そうしたところで、弱音から獰猛な響きの音楽までがそこで生まれていました。会場自体も素晴らしく、大変に感激したことを覚えています。(この日はシェリルチャンは心音も使っていて、出音もさりながらセッティング自体も良かったように思います)

 

土曜日は、ゲーテ・インスティチュートで。ここでは昨日はノイズに埋もれがちだった器楽とくにセルジュークやミイの、鋭角的かつ攻撃的できりもみをしていくような演奏が際立ったと思います。こんな人いるんだ、という驚きは一瞬で、果てしない競演を楽しみました。全体演奏のパートでは、正直やや混沌が深まり、爆音で暴走していく人たちが暴れまわっていて、ちょっと解放されすぎか、もしくは意気込みがやや過ぎて暴走しているのかなと思ったところもあります。終盤、石橋英子さんのピアノの前にいたのですが、ほぼ全く聞こえない中で弾き続けた姿に(終演後に聞いたところ、本人も聞こえなかったようです)逆に感銘を受けました。集団パートで暴走してしまうのは、実はこれも去年の台北でも起こったことで(初日がカオスだったと聞いています)、二日目の公演ではチーワイ氏が、なんとギターを弾かずに会場をひたすら歩き回るというパフォーマンスをしていたことを、ちょっと思い出しました(ちなみにこの台北二日目の公演は大変素晴らしかったです。)。そういえば、この今回のAMFで、FMN石橋さんとも結構頻繁にお話しするようになったりして、楽しかったです。

など。とはいえ、各局面ごとには、どれも肝を潰されるような素晴らしい瞬間があり、大変貴重な機会だったと思います。こうした、伝統的な美学を現代的な感性でブーストしたような演奏家たち、アジアの演奏家たちの共演を、また見てみたいです。

 

関連リンク

アジアン・ミーティング・フェスティバル2019ホームページ

http://asianmusic-network.com/archive/2019/05/amf-2019.html