噪集2019初日

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噪集2019 初日の様子

 

 ちょっとさかのぼります。台北でのFEN(Far East Network)のコンサートに行ってきました。8月28日と29日の2日間。順に書いていこうと思います。

 

 文化實驗場 C-LAB

 まず初日。会場は「空總臺灣當代文化實驗場 C-LAB」というところでした。台北駅から2つ目の忠孝新生駅で下りて、徒歩5分ぐらい。近くには科学技術大学もあったりして、都会です。僕自身は、台北に到着して、ホテルにチェックインしたらすぐに移動してきました。空気はけっこう暑くて、日の射すような熱さというよりは、全体が蒸し風呂のような暑さです。コンビニで飲み物を買うのは必須で、台湾の気候を堪能しました。

 それで、この場所が面白かったのは、元は空軍の施設だというところです。確かに、商店街なのにここの周りは急に空き地で、中も独特に殺風景。広い敷地に、宿舎のようなものが並んでいて、ところどころ屋根が壊れたりなど、年月を感じさせました。空軍の施設だった場所を、アートのために転用したようで、ここでのイベントは無料でやるということのようです。軍事と民主化文化政策と、いろいろと絡まっている点と、とりあえず見た目の殺風景な風情が面白かったですね。ここで色々なことが起きているという感じをもちました。

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こんなところ。だいぶ殺風景です。あちこちで展示もやっていました


  演奏は一番奥の中正堂展演空間というところでした。あまりじっくりと見ませんでしたが、壁に民主と愛国的な文章の掛け軸がドーンと2、3枚貼られていて、文化と軍事の複雑な関係を再度しのばせます。開場は夜19時すぎで、その前にダワンさんと落ち合ってチケットをもらったりしましたが、まず、とりあえずすごい客の列でした。150人以上は居たのではないでしょうか。入り口前に並んでいましたが、待っている列の最後尾はすでに見えません。ちなみに、企画全体は台北アートフェスティバルの一環ということで、去年のアジアン・ミーティング・フェスティバルと同様です。タイトルも「Noise Assembly 2019 : No man’s island(噪集2019─無主之島)」となっています。期待の高さがうかがえます。

 

 FEN

 さて開場から、始まりです。今回は、まずFENと、現地台湾の(相対的に)若手ミュージシャンとの共演というぐあいでした。FENについては、今さらというところもあるかもですが、大友さんと、ソウルのリュウ・ハンキル、シンガポールのユエン・チーワイ、北京のヤンジュンからなる、実験即興ユニットです。結成は2007年。由来については大友さんが書かれています。

 

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 実はFENのライブを直接に見るのは、これが初めてでした。機会を逸していた、というのもありますが、やや政治的に見える結成の仕方に、どこか落ち着かないものを感じていたというのもあるかもしれません。ただ、実際に見てみると、もう現在となってはアジア各地から欧州との交流も行われるほどになっていて、無理に集まったというより、ハイレベルで個性的な音楽家のユニット、という印象もありました。

 

無主之島 

 さて会場内は、ぐるりとホールの中に楽器が点在していて、各楽器のそばにスピーカーが置かれています。これはAMFや、あるいは08年ぐらいから大友さんが試している集団即興用のセッティングで、巨大なスピーカーに音を集めたりせず、それぞれの演者の音を、それぞれのスピーカーから聞きます。観客は、なので、座らずに立って移動しながら聴く、というのが一般的です。これはなかなか日本では満席だったり座ることが多く、実現が難しいところもあるのですが、台北では去年のAMFでも同様に、客の多くが歩きながら自分で音楽を探していくようにして聴いていくことが普通に実現しています。今回もそうでした。

 

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 次に台湾から参加のメンバーです。一覧だとBetty Apple、Jyun-Ao Caesar、廖銘和(Dino)、李俊陽、盧藝(Lu Yi)、洪梓倪(Tzu Ni)、徐嘉駿(Jared Xu)、奈鳩・布朗(Nigel Brown)。順に見ましょう。

 ベティアップルは去年のAMFにも出た、女性のノイズ・パフォーマーです。身体に関心を持ち(楽器はバイブレーターをアンプで拡大する場合もあります)、欧州やアジアも飛び回っています。かなりエロかつグロなシーンも厭わない印象があります。シーザーは前々回に書いた、録音技師兼ギタリスト。ディノは、台北ノイズ第二世代の重鎮で、ノーインプットミキサーで爆音を出します。

 李俊陽は、画家でもあり、伝統的な笛や弓を扱うマルチ楽器奏者でもあります。台中を拠点に、実験的なアートを展開している中心人物の一人。ル・イは、台北芸大に拠点をもつノイズ第一世代ワン・フーレイが開催している電子工房Soundwatch studioのメンバーで、メディアアートとの交差を進めています。Tzu Niは、ながらく台北のノイズイベント失声祭Lacking Sound Festivalのキュレーションも行っていたノイズ&サウンドパフォーマー。光を電子的に変換する装置を駆使していました。

 ジャレッド・シューは、Berserk名義で高校生からノイズを始め、流れるような展開のハーシュノイズで、メルツバウとのスプリットを出したりロンドンのカフェ・オトでもライブをしている、大学生ですが要注目人物です。台北では、レコードショップの先行一車、レーベルのカンダーラ・レコードの中心にいる一人でもあり、ゲリラライブの主催もしています。

 最後のナイジェル・ブラウンは、台南のオルタナティブスペース「聴説」の運営の一人でもあり、一昨年の札幌でのAMFに出演したアリス・チャンとも来日したことがあります。改造オルガンを使ったりミキサーを使ったり、穏やかな中に構成された展開をもつ即興演奏を行います。

 

 という具合です。おわかりのとおり、この面々は、すでにそれぞれの関心において、台湾という枠内を飛び出て、アジアや欧州でも活躍している面々です。また、ディノとナイジェルは40代のように思いますが、他のメンバーは総じて若く、全員がノイズを苦にせず、またパフォーマンスやメディアアートサウンドアートなど他領域との接合も試みています。

 僕は彼らを、台湾ノイズ第三世代と呼んでいます。90年代の民主化以降に「ノイズ」を多様に解釈したリン・チーウェイやワン・フーレイのもとで、アートや文化の最先端へと飛び出していこうとする姿がそこに見えるように思うのです。

 

 というメンバーで、さて始まりました。いかがになるでしょうか。というのは、また次回。

 

 

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