19世紀の遺産

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コモンウェルス加盟国の地図。ウィキメディアコモンズから


 

さいきんのUKの文化動向を見ていると、いわゆるブラックというか黒人を主題にしたものが増えてきているように思います。ロンドンを中心に、イギリスはある程度の多文化社会を作り上げているように思うのですが、その中で、とりわけコモンウェルスと言われる地域というか、南ア・オーストラリア・中南米などと、いわば世界的なつながりを見せているところがあるようです。このへんは、21世紀のUK文化を捉える上で、とても重要なように思われるんですね。

それで、たまたま歴史に詳しい人が身近にいるので、ちょっとこうした点についての流れを、代わりに書いてもらおうかと思いました。では、ちょっと書いてもらいましょう。

 

どうも。UKの、海外との関係ということで、連邦というのの話ですね。ありていにいえば、これは大英帝国の、その後の話です。植民地とか、20世紀後半にどうなっているのか?という問題。あんがい、このへんって、教科書とかでは習わないかもしれないですよね。自分も専門ではないので詳しくは書けませんが、ざっくり概要のポイントを見ておきましょう。

 

まず前提は、大英帝国です。19世紀。世界の3分の1を支配したとか言われるものですね。世界中に植民地を持っていました。植民地。

植民地とは、簡単にいえば、支配している場所ですね。そこには統治機構がある以外は、住民には、何の権利もありません。支配だけされていて、税金とかを支払うように強制されている(もちろん、中の社会には法規制があったり、支配機構がとりたてている人たちもいたかもしれませんが、少なくとも自分たちの政府はありませんでした)。

それで、自分たちの政府を持つ、というのが、独立ですね。植民地独立運動は、20世紀半ばに世界中で見られて。UKの場合は、インドのガンジーネルーなどが有名ですね。で、そのときに、出てきたのがコモンウェルス(連邦)です。

 

これは、ちょっと順番を入れ替えますけれども、植民地が独立しようとしたとき、UK本国政府が「わかりました、独立して政府を作ってください。ただ、その後も私たちと関係を続けましょう」と言って、別の国際組織に入るように勧めた。そして実際にインド独立政府は、その組織に入りました。簡単に言うと、それが連邦(イギリス連邦・英語ではCommonwealth)です。

このコモンウェルスは、帝国ではないものです。代わりに、互いに独立した政府(国家)同士で作り上げるものです。つまり、それぞれが平等な関係であるということですね、トップはイギリス国王がつとめていますが、そのもとでUK本国を含めて独立政府が平等になってできています。

 

で、UKは、植民地独立がさかんになったとき、各地で独立を認めて、代わりにこのコモンウェルスに加盟するように進めました。一部の中東地域をのぞいて、アフリカから中米・オーストラリア、インドなど、かつての大英帝国領であった地域が、これに加盟しています。ちなみに現在も続いていて、54カ国が加盟しています。データがウィキペディアなので雑ですが、総人口が21億人、領土で地球上の3分の1を占める地域とされています。

支配関係はないので、相互に、経済協力や外交、文化面での協力関係があります。もともとはUK本国がトップのように作られましたが、平等であるようにするために名称も「ブリティッシュコモンウェルス」から、「コモンウェルス・オブ・ネイションズ」に改称しています。日本語にすると、「国家連邦」ですね。巨大な国際組織で、これが大英帝国から生まれ変わった、20・21世紀のUKの対外組織です。

なお、これはかなり独特で、例えばフランスなどでは、アルジェリア戦争に象徴されるように激しい独立戦争を経験しています。UKは、むしろ植民地の独立をあらかじめ受け入れて、そしてこちらのコモンウェルスに移行するように、時間と交渉をかけて進めていきました。

 

 

こうしたコモンウェルスとの関係は、様々です。特に20世紀半ばには、UKは「移民法」というのを制定して、コモンウェルスからの移民にはUK市民権が付与されるようにして、人的な移動を促しました。この時に、ジャマイカや南ア、インドなどからやってきた人は、その後に家族を作って、すでに3世代・4世代になっています。もう完全に英国人ですね。

他にも、留学で優先的な措置があったり、文化・経済面などでも交流があります。

また、大きいものでは国家の外交方針として、このコモンウェルスも位置付けられます。20世紀半ば以降のUKの外交方針については、よく言われるところでは「3つのサークル(three majestic circles)」と言うのが知られています。これは二次大戦後にチャーチルが(チャーチルは45年の選挙で、福祉国家を謳った労働党に対して、なぜかアカ批判を展開して敗北、野党になって遊説していました。状況を切り取った「鉄のカーテン」演説なども有名ですね)演説で述べていたこととされていて。UKの外交で、3つの、どれも重要で、どれも平等に考える必要のあるものを挙げました。

一つは、アメリカですね。もう1つはヨーロッパ。もう一つが、帝国つまりコモンウェルスです。これらを平等に扱えば、UKは世界的な発言力を維持しながら、うまくやっていけるだろう、ということですね。そして、実際に20世紀後半の外交は、これに沿って進んでいると見なせると言われています。

例えば、UKはユーロを導入しませんでしたが、それはヨーロッパだけに取り込まれることを避けるためで、連邦でも力を持っているポンドを維持するためであると言われました(これはマーストリヒト条約の付帯条項として、ユーロ非導入が明記されることになります)。一方で、21世紀に入って、イラク戦争が起きたとき、理由もなくアメリカに協力して参加したということがありましたが、2010年代の報告書で、このプロセスは無条件でアメリカが孤立した場合は協力するという外交方針に沿ったものだった、ということが指摘され、批判もされました。こうした事柄は、3つのサークルの方針が、非常に強くUKを縛っていて、なおも作動していることを示しているようにも見えます(少なくとも、これをまず踏まえる必要があるでしょう)。

もっと裏返していうと、UKはEUを脱退しましたが、実はUKにはもう一つ、コモンウェルスという巨大な国家連邦を持っているんですね。脱退の時に「世界から孤立するのではないか」という文章を見ましたが、それは少なくとも間違っている。ただ、このコモンウェルスだけに頼って国際的地位を維持できるかは、別問題ですね。しかしながら、実際に脱退してしまったので、UKには光り輝く活路として、このコモンウェルスが待っていることは間違いないでしょう。これからも、ここでの様々な関係が作られていくと思います。

 

 

 

はい、物知りぶった言い方でしたが、説明してもらいました。アフリカから中米まで、世界中に広がっているんですね。UKにいる移民を家系に持つ人にとっては、むしろ大きなパースペクティブとして開けているかもしれません。

ちょっと踏まえておくと面白そうだなと思い、そんなところでした。2020年代、大きく変わる国際関係の中で、どんな文化が生まれてくるのか、楽しみでもありますね