即興と作曲、歌と詩と電子の2020年代

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ラクスラー・オクテットのアルバムGLEDALECのジャケット

どうも、とうとう緊急事態宣言の中で、本格的な自粛期間に入ってしまいました。ほとんど外出もせず、もっぱらリモートでの日々です。そんなさなか、外にでたり遊びに行きたいという時間を使って、欧米の即興や作曲のシーンをポチポチ、YouTubeで探していたりしました。

で、そういうこうしているうちに、なんとなく面白いことをやっていそうな人たちが見えてきたので、少しまとめてみましょう。考えてみれば、もう2020年代。即興でポストモダンや、物質的な感触というところが言われてから20年や30年が経とうとしていて。そうしたところにはないシーンも、出てきていそうです。

ここには、そうして見つけた動画を並べてみます。あまり説明はしないので、むしろ直接にリンクを見てもらえればいいなと思います。

あえてまとまりをいうと、まず女性が多いというか、これまでやはり男性が多かったシーンに対して、女性が活躍しているというのが、見えてきます。それに伴って、アスレチックというか運動というか戦闘というか、そういう雰囲気ではない(かといってスピードが遅いわけでも、テンポがゆったりしているわけでもない)光景が、少し広がっています。ちなみに、ここに出てくる多くの人は、1980年代以降の世代で、すでに2010年代前半には若手として現地では注目されていたようです。激しいというよりも、豊かな音楽性で支えられたものが多く、またメインのプロジェクトとして歌をフィーチャーしたものなどもやっているようです。この辺りは、近年、カトリーヌマラブーなどがいうような情動(アフェクション)の流れのようなものとの並行関係も、少し感じてしまいますが、やや穿ち過ぎかもしれません。

では、しのごの言わずに、素晴らしい音楽を。とりあえず貼っていきましょう。

 

 

まずは、ハンブルクのシーンから。ハンブルクは独自の音楽シーンがあって、メディアアート施設のZKMもありますので、様々な活動が盛んです。とくに注意を惹いたのは、非常に安定した演奏で、作曲作品も演奏するEMNアンサンブルです。このギターの方は、ジョンゾーンのギター作品を録音などもしています。では、こちらです

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次に、おなじくドイツの、ケルンのシーンです。ここはライブハウスがしっかりしているようで、そこで多様な音楽が演奏されているようです。中でも注目は、弦楽だけの7人によるアンサンブルをまとめているジュリア・ブリュッセル。メロディとリズムを7人が多様に入れ替わりながら演奏していて、とても素晴らしいです。

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続いて、ベルリンのシーンで、洗練された演奏のマリア・デバッカー。現代音楽の演奏の中に、ジャズのアドリブが埋め込まれて、情緒や構築が入り乱れているような、かなり質のたかい繊細さと力強さのある音楽と思います。

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さて、そこから。オランダで2010年代から、各地のフェスでも活躍しているのが、カヤ・ドラクスラーです。本人はピアノを演奏しており、静かな反復の連続と断絶が、それ自体非常に美しく感じられます。また、オクテットも主宰していて、こちらも大変に素晴らしく、ロバート・フロストの詩に曲をあてた新作も大注目でしょう。出身はスロベニアで、現在はオランダやデンマークなどを拠点にしているそうです。

まずはピアノソロを。

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次に、オクテット。ここでサックスの一人はICPオーケストラなどでも活躍している人です。またヴォーカルが2人おり、弦楽も入っているという、かなり特殊な編成です。冒頭の荒々しいところから、幽玄とする歌曲に進行していくところなど、ぜひ

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最後はニューヨークで、すでによく知られていますが、メアリ・ハルヴァーソンもあげておきましょう。ギタリストで、激しく濃厚なNYのシーンから、非常に大胆に構成した音楽を作り上げてきたといってもいいように思います。主宰しているオクテットや、ロバートワイアットに影響を受けたというユニット、コードガールの歌なども、とてもいいように思います。

まずハルヴァーソン・オクテットの音源から。ユーモアのある明るい旋律が、複雑なアンサンブルによって形作られていきます

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ユニット、コード・ガールのMV。

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【追記 電子音楽家たち】

さて、ここで、ハルヴァーソンと一緒に活動している人を見てみると、また面白い人たちがいることを知りました。電子音楽家です。といっても、機械だけをいじっているのではない、作曲もするし、演奏もするし、器楽演奏とも一緒にやる、といった感じです。

いいかえると、音楽ができる(器楽作品を書ける)人が、電子楽器の演奏や開発もやっている、ということになります。技術者だけでなく、音楽のできる技術者が作る音楽、というのは20世紀半ばの現代音楽で、ヴァレーズはじめ一つの夢であったかもしれませんが、そうした人たちが登場してきているというわけですね。21世紀です。

 

いくつか注目の人を貼ってみましょう。まず1人は、サム・プルタという人で、普通に検索すると器楽の現代音楽が出てきます。他方で、本人はエレクトロニクスを操っていて、モジュラーシンセとアイパッドなどでのソフトシンセを使用し、主にライブエレクトロニクス(演奏中の他の奏者の音を取り込んで、リアルタイムで変調する)の演奏をしているようです。

まずその姿を見かけたのは、こちらのアルバム・トレーラーから。この映像自体もかなり素晴らしいのですけど、19秒あたりから早くも姿を表すモニタと、そのモニタをテーブル上に置いて操作する影があり、次第に高速操作へと移っていきます。

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さらに、自身の作曲した器楽曲の演奏風景も。完全にクラシック型の器楽曲で、そこに自らもライブエレクトロニクスで参加しています

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さらにアンドレアス・エドアルド・フランクは、そのサム・プルタの作品も演奏しながら、やはり本人が演奏するタイプです。こちらは、指揮付きの器楽曲で、真ん中にパーカッションと電子楽器奏者(おそらく本人)が陣取って、緊張感のある構成を生み出しています。

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またフランクはy-bandというユニットでも演奏していて、ここでは即興の余地のある作曲作品で、電子楽器が絡む作品群を演奏するユニットのようです。ここでは、シンセやターンテーブルで参加していて、つまり他人の作品を演奏するということも継続的に積み重ねているようです。やや激しめの曲調のものですが、それを演奏しているところをどうぞ。

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はい、即興と作曲、ということで、即興性を含む作曲作品が近年すこしずつ見られるようになってきていると思いますが、ここでは〈技術と作曲〉というか、技術的に音を生成する(=ジェネレイトする)楽器と、作曲作品の間にいる、いわばテクノロジーコンポジションの両極の中にいる音楽家たちがいるようです。先にも言いましたが、まるで20世紀半ばの現代音楽が描いていた、一つの夢、一つの未来を、今や軽々と現実のものにしているシーンがあるようで、大変興味深く思いました。フランクなどはノイズにも関心があるようで、このあたりも少し追っていきたいです。

 

【追記その2】

この記事を書いた後で、最後の映像で演奏されている作品の作曲家、アレキサンダーシューベルトが、電子音楽・アートの世界的な賞であるアルスエレクトロニカ2021年の金賞を受賞しました。受賞作は、次にあげるもので、説明を見るとAI支援がされている映像と音楽の作品です。一応見ていくと、どうやらストーリーがあって。冒頭に実際の音楽家たちをAIが質問して、読み込んでいく・・・そして途中から暴走を始めて、最後にはAIが取り込んだ仮想人格が、電脳空間上で漂っている、という感じになっているようです。これは、ライブエレクトロニクスが、まず実際の音や映像を読み込んで、それを変調していくことと並行していて。技術的なテンポと、ストーリー展開がうまくマッチしているような気がします。音楽的にも10分あたりのノイジーな箇所はなかなかいいかと。おすすめです

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もう一つ、すでに古典的となっているらしいものとしては、映像と音が同期する作品があります。こちらは、メディアアートの学生たちが何度も見て勉強するような(まさに古典)ものとなっているようです

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シューベルトの名前は、すでによく見かけます。例えば、アンサンブル・アンテルコンタンポランが演奏しているこちらなどは、電子音響の美学を、器楽曲に移し替えたもので、器楽の領域を拡張するような位置付けにあるのだろうと思われます。

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ということで、そんなところでした。2020年代、楽しみな感じですね。