旅行記

さて長くつづきましたが、最後に備忘録的に、旅行記もしたためておこうと思います。

まず、これまでの記事を時系列に並べておきます。

初日(噪集初日)

https://ohwaku.hatenablog.com/entry/2019/09/06/125233

https://ohwaku.hatenablog.com/entry/2019/09/07/102348

二日目(噪集二日目)

https://ohwaku.hatenablog.com/entry/2019/09/08/103839

三日目(即興表演ノ夜)

https://ohwaku.hatenablog.com/entry/2019/09/02/201153

四日目(ディノの家)

https://ohwaku.hatenablog.com/entry/2019/09/04/120439

 

 

今回は、8月28日から9月1日まで、4泊5日で台北に行ってきました。

ことの始まりは、すでにながらくやり取りしているlolololのシェリルさん(シェリル・チャン)とシャ・リンと、5月あたりには、夏にまた行こうかなとか言っていたと思います。そのあと、シェリルさんはAMFで7月に東京にも来たので(成功を収めたようで何よりでした)、そのときほんの少しだけ話をして、8月に台北で身体ワークショップがあるかも、ということも聞きました。この話は結局、未完成ぽいのでまたにしようとか、その間にシェリルさんが欧州のイベントに行くことになってあっという間に行ってしまうとか、なんだか色々あって、けっきょく今回はシェリルさんには会わずじまいでしたが、そのあたりから行く予定が念頭にありました。

ちなみに、何度も出てきたシーザーとシェリルさんは知り合いで、一緒に演奏もしたことがあり。8月の下旬、もう台北を発ってしまうシーザーと、台湾での二人での最後の録音をあのディノの家でやってから、シェリルさんはベルリンへ旅立ちました。今まだ欧州遠征中ですね。

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8月中旬、ADAMでのシェリル・チャンによる集団パフォーマンス

 

並行して、花崎さんから、前回のパフォーマンス・ナイトの映像を送ってもらったことがありました。そこではディノとシーザー、それに香港からナーヴという電子音楽家、さらにダンサーとパフォーマーもくわわった、一時間ぶっ通しの即興パフォーマンスで、しょうじき度肝を抜かれました。シーザーのギターの面白さもそこでわかりましたし、またこの時はじめて花崎さんが卓越した身体表現を持つアーティストであることを知りました。その旨などをお伝えすると、8月下旬にまた次のをやる予定で、大友さんも来るというのを聞き、ではそのあたりかなと決まった次第。

そんなわけで、あいかわらず僕の関心は、主に音楽、広くてアートで、台湾といっても、そこばかりです。表現としてのノイズ、手法としてのテクノロジー/バイオアート、理論としての道教ないし伝統中華文化を、複雑に組み合わせた動向に注目するところがあり。いささか粗暴な手つきでありながら思慮に富んだその作風は、欧州で通じそうな(あるいはすでに活躍している)作家もたくさんいて、新鮮な驚きと興味がつきない、というところでしょうか。

youtu.be

 

 

旅程が決まれば、予約はすべてネットで二週間前に。今回はホテルもおさえ、日本円では一泊5000円ほどのところにしました(朝食をつけるとプラスいくらかとなるようです。素泊まりでした)。台北メインステーションのすぐそば。

飛行機も格安で快適で、午後2時に到着し、4時ぐらいにはチェックインしました。台北は8月末でまだ暑く、36度とかそのあたりが普通。ただし電車や室内はクーラーで寒く、服装が難しいところです。駅が近かったので、多くはパーカーを着て過ごすことになりました。

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ホテルからの眺め

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ダワンさんと食事。お世話になりました

初日は、到着したら夕方5時半に、チケットをお願いしていた(チケットは無料ですが事前予約が必要でした)ダワンさんと忠孝新生で待ち合わせ。あたりをぶらぶらして、食事をとり(冷たい豆のスープのようなデザートが美味しかったです)、中正堂に。チケット現物を確保したら、時間があったので門の外に出て、二人で(僕は煙草を吸いながら)色々な話をしました。政治や、台湾の政治や、日本の文化状況の話が多かったです。トリエンナーレの話もしましたし、ネットだけの人物と実際会う人は、ちょっと違うのだ、という話などをしたのが印象的です。アンダーグラウンド文化の生き字引と言われ、日本の事情にも詳しいダワンさんの思考は、時に鋭く、刺激的でした。

時間になったらコンサートへ。個人的には大変に面白かったです。終わったあと、大友さんに挨拶したり、ぼんやりホールを見ていたら(写真でわかるように、色々な看板があって、見入ってしまいました)背後から肘をつかれ、振り返るとサングラスをかけた背の高い男が立っている。何かを英語で言っているので聞き取ると、「アイム・リン・チーウェイ」と言われました。

たぶん僕は、文字どおり穴があくほど彼の顔を見たと思います。サングラス越しの彼は静かに笑って、僕を見返していました。というのも、90年代の台湾にノイズを導入した人物として知られているのは主に二人いて、一人は現在、台北芸大でメディアアートを教えているワン・フーレイ。もう一人は、ノイズユニット、ゼロ・サウンド・リベレーション・オーガニゼーション(zslo)を率いて演劇とアウトサイダーアートを混ぜ合わせ、アンダーグラウンドなノイズカルチャーを作り上げたリン・チーウェイで、その後、無駄な長期化は先端的文化の衰退しかないとユニットを解散、渡仏して人類学を学びながら、今は独自のメディアアート作家となっている、その彼でした。何よりも僕自身が台湾のノイズに関心を持つことになったきっかけでもあり、その時に交流を始めた当の本人だったのです。ここで初めて、実際に会うことになりました。

このような時どうなるかは人それぞれでしょうが、僕にかぎれば、まったく言葉が出てこなくなってしまいました。苦笑するばかりですが、握手をして、挨拶をして、「忙しいらしいがそうなのか」というのが精一杯。とはいえ、腰を据えて話をするなら、腰を据えないといけないわけで、今の彼は間もなくまた渡仏(パリ在住のため)のため大忙しなのもわかっていて(つまり聞くまでもなく、すでに分かっていることを聞いている)、まったく言うことが見つかりません。写真撮っていいかな、とかわけのわからない話をしていたら、リンさんが今度は奥にいた男を小突いていて、誰かと思ったら大友さんでした。今度は大友さんが声をあげ、20数年ぶりの再会だったということでウオーとかそんな感じをリンさんがまた笑顔で見守っています。グランドゼロ小編成で台湾に来た時いたのがリンさんだったこと、あとディノがまだノイズをやる前の話とか、還暦の話とかをしていて、ゲラゲラ笑いながら写真を撮りました。また会ったら、今度はえぐいノイジーな話をしたいです。

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リン・チーウェイと大友さん


 

 

翌日は、とくに予定もなく。実はFENもどうしようかなと思っていたのですが、lolololのシャリンが「今日のはヤバいよ」というので、行くことにしました。ホテルのそばに朝食屋さん(台湾オムレツやブレックファースト専門店があるのです)を見つけ、おっかなびっくり入ってクレープなどをいただき、美味しかったのでその後も朝食は毎日ここで取ることに。ちなみに街を散歩すると、壁の落書きに「香港・時代革命」の文字。その問題意識はここ台湾まで覆っているのを肌で感じます。

 

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一旦ホテルに戻り、11時ぐらいに台北メインステーションに行きました。2階に大きなフードコートが3つあり、一つは台湾夜市と題して、有名な地元料理が集まっているからです。魯肉飯や牛肉麺やカキオムレツなど、頼むとどれも美味しい。野菜や和え物もおいしいので、ここでも、もうお昼は毎日ここに通うことにしました。

それから、地下鉄で二駅ほど移動して、問屋街の昆明街へ。その一番奥に、lolololのメンバーでもあり、書家であるツァイがやっているカリグラフィのスタジオがありました。以前から台湾の書の文化に関心があって是非みたいと思っていたので(しかし去年は洪水のような大雨でスタジオが壊れたりして行けなかったりして)ようやく念願叶って訪問しました。涼しげなオフィスに、隷書や篆書の作品が多く並んでいます。

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ツァイのスタジオ「Behind the Paper」。お盆最終日ということでお供え物がしてありました。

実際に会うツァイは(ちなみに女性で、シャリンと同い年と言っていました)流暢な英語で、来月にアメリカでワークショップがあるのだと言って、僕はまるでその生徒のように彼女のコンセプトを聞きました。とくに漢字の初期形態に関心があって、象形的な性格まで遡るとそれが文化的な意味を理解することにもなるということで、古代の文字をミニマルデザインに変換したような作品を作っていました。自分たちは、伝統を強調する世代と、デジタルだけの世代とのちょうど中間で、シェリルやシャリンたちの活動も面白いと言っていて、非常に頭がクリアになる思いでした。

 

そのあと、龍山寺というお寺に寄ったり、暑くてすぐ出たりしたあとは、また忠孝新生で、C-labで妖怪をテーマにした展示を拝見。実際の彫刻群もさりながら、メディアアート集団naxs-corpのVR作品を実際に見て、大変興味深かったです。

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龍山寺。すごい暑くて大変でした

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メディアアートコレクティブlolololの中心の一人naxs.corpの作品。meuko!meuko!の映像も手がけています



また駅にもどり、今度はそのシャリンと待ち合わせ。科学技術大学のそばのお店で食事をとり、最近は忙しそうだねと聞くと、来週からイギリスに行ってワークショップがあるといきなり言われ、そのあとはそういう話でワイワイと。

時間になったので中山堂へ行き、FENの、これまた大変に感銘を受ける演奏を見ました。個人的には09年あたりに浅草のアサヒ・アートスクエアで「楕円の**」という大友さんのイベントがあって精緻なアンサンブルだったと記憶しますが(**はちょっと記憶を失念・・・)それよりも場合によっては完成度の高いものが実現していたと思います。台北に来て、このような本格的な即興のアンサンブルを見ることになるとはと、しばし。終わった後、FEN各人も皆たのしそうだし、大友さんも「こういう企画ができる台湾はいいなあ」とか、「フィリピンや中国はもっと若いから、成熟してるかも」とか、そういう会話を。

その後は、またシャリンと落ち合って、駅前のモスバーガーで、夜11時ぐらいまで、感想や欧州でのイベントの話などをしました。シャリンに初めて会ったのは1年前ですが、とても1年とは思えない変化で、芸術家としての不安と自信を持っている姿が、頼もしいというか、そのような感じでした。

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lololol主宰のシャ・リン。幅広い関心で活動を組織していました

 

 3日目と4日目は、すでに書いた通り。3日目はシーザーの台北最後のイベントを、4日目はディノの家でゆったりと酒を。楽しかったです。

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シーザー台北最後のライブの後、ここで一服。


 

 

5日目はもう帰国の日。毎回、台北に行くたびに最終日の恒例になっているのはシャリンと早朝7時に国父記念館で待ち合わせ、公園で彼女のアート拳法を教えてもらうことですが、実はこの8月31日の午後にベルリンではシェリルさんが出演するイベントがあり、おそらくはそこでの密な連絡と、さらに渡欧の準備と打ち合わせでシャは完全に昼夜逆転しており、そのままにすることにして、のんびり散歩などして帰りました(ちなみにベルリンでのイベントは成功したようで、新聞にシェリルさんのパフォーマンスの様子も掲載されたりして、何よりです)。

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帰国日の朝、台北の空は快晴でした

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シェリルさんのドイツでのパフォーマンスの記事。植物に電極をつけるパフォーマンスはインパクトあったようです



 

 

今回の台北滞在は、かなり若い世代の音楽家や作家を見ることができましたし、また多くの新しい人と会ったり、節目の瞬間に立ち会ったり、不意の出会いもあったり。また海外へ遠征する作家たちの姿も頼もしく眩しく。刺激の多い日々でした。

(おわり)

 

 

 

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