Kaoru Abe No Future at l-e

 

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11月8日金曜日、l-eにて、Kaoru Abe No Futureというバンドを見に行きました。北京から、ベースがザオ・コン(Zhao Cong)、ギターとドラムとボイスがズー・ウェンボー( Zhu Wenbo)、ギターとボーカルがリウリウ( Liuliu)の3人組です。

とはいえ、このうちの二人コンとウェンボーとは、すでにフェイスブック上で知己でしたし、また、ひっそりとではありますが、実験音楽のシーンでは少しずつ名前の知られた二人です。少しメモしておきましょう。

 

二人は、現在の中国で、数少ない実験音楽を担っている二人です。中国とくに北京ではヤンジュンの活動が知られていますが、さらに次の世代として、レーベル「ズーミン・ナイト(Zoomin' Night)」を運営していて、それに沿ったコンサートも多く企画しています。中国では、ノイズのシーンは上海を中心にあることが知られていますが、いわゆる即興や実験音楽の方向はほとんどなく、非常に希少な活動で、またそこからどういうものが出てくるか注目を集めています。リンクは下にまとめておきます。

 

ザオ・コンとズー・ウェンボーは、日本にも何回も来ていて、フタリでコンサートもしています。はじめて見たのは去年でしたでしょうか、ザオコンの即興演奏の会で、金属製のボウルに、モーターで動く球をいくつか入れ、音をマイクで拡張する低音重視の演奏をしていました。

次は、去年の6月。二人で来日して、その時はウェンボーの作曲作品が演奏されました。「ノイズ・ミュージック」というタイトルだったと記憶しますが、アンサンブルでのランダムな音の出入りが織り成していく作品で、コンセプトが明瞭な一方、音がかなり雑(弱音で統一したりはしていない)という印象があり、面白く思った記憶があります。

で、それをフェイスブックに投稿したら、なんとなく連絡を取るようになりました。レーベルから出る新作も、随時チェックするようになり(現代音楽のギタリストであるクリスティアン・アルベールの録音集は、非常に洗練された美しさと、息の長い響きの持続で、傑作と思います)、コンサートの動画なども興味を持って見るようになったわけです。

 

vimeo.com

 

そんなところに、今回、「カオル・アベ・ノー・フューチャー」というバンドでやってくると聴き、けっこう驚きました。まずその名前。次に、そのページがあって音を聞くや、狂ったチューニングやフレーズを壊して演奏し、不安定にがなる声が交ざっていて、まるでアート・リンゼイのいたD.N.A.で、一瞬ひどく混乱し、それから大変感動しました。

D.N.A.は、1970年代末に出てきたバンドの一つで、『ノー・ニューヨーク』というコンピレーション冒頭に収録されていることで知られていると思います。一番目立つのはリンゼイの、チューニングせずに、ただ弦をかきむしっているだけ(全くギターを演奏できなかったとも言われているはずです)のエレキギターで、頭をかきむしられているような混乱した刺激が特徴。さらに調子のはずれた声で詩を読みあげ、そこにひどくタイトなモリ・イクエのドラミングと、過度にグルーヴ感のあるティム・ライトのベースが組み合わさって、初めて聞くと意味不明が過剰で、しかし、ひたすら反抗的できらめくアート・ロックというのが印象付けられると思います。

D.N.A.のライブ映像

https://youtu.be/IKOhni-j9_M

 

彼らの音は、まさにそのD.N.A.の音を思い出させました。しかも、安定したコンのベースは、どちらかというとソニック・ユースのキムゴードンを思わせ、ありていにいうと「キムゴードンが入っているD.N.A.」という印象だったわけです。

いろいろ感想はあるでしょうけれども、やはり音楽で、特にマイナーな音楽では、なんらかの刺激や反抗的な意思のある音楽も必要と思っているところがあり、大変に気に入ってしまいました。単調なフレーズが反復され(それが壊されながら重なって、独特のグルーヴが生まれている)ているのですが、印象的なものは覚えてしまうほどでした。

おまけに、探して行ったら動画もあり。これは彼らのコンサートのMIJIというシリーズも含むアカウントですが(とにかく再生回数が少ないので、多くの人がチェックしてみることをお勧めします)、どうもゲーテ・インスティチュート北京でやったようです。内容は、音源とほぼ同じで、「本当にやっているんだ・・・」と驚きました。絶賛する投稿をフェイスブックにしたら、返事が返ってきて、(じゃあ行こうかな)と思ったわけです。

 

* 

長い前振りでしたが、すでに言いたいことは、ここまでで書き尽くしているようにも思います。実際に目撃しましたが、まさにD.N.A.、ノー・ウェイブの世界が目の前で繰り広げられました。あっけに取られ、圧倒され、楽しくサウンドを体験しました。見ながら、途中、どうしてこれが日本(東京)ではなく北京から出てきたのか、とか余計なことも考えましたが、紛れもなくパンクで、かつノーウェイブです。急にマイクやアンプを切って弱音で演奏したり、ドラムを口で吹いて振動させたり、まれに実験音楽の手法が使われていましたが、どれもパンキッシュな音楽のために使われていた風情でした。ウェンボーが「music is plastic bag」と叫んで連呼している曲もあり、音楽そのものを批判する姿勢が、ますますパンキッシュです。

 

すっかり感動して、終わったあとに、ウェンボーとコンと話をしました。D.N.A.だなというと、二人ともわかっています。彼らは深くロックマニアでした。今年から始めたプロジェクトで、とウェンボーは言っていました。俺はギターはうまくないけど、技術に焦点を当てたバンドではなくて、コンセプトは結構明快なんだ、と言っていて、まさしく。コンに聞くと、昔もバンドをやっていたとのこと。安定したベースは納得です。名前は、最初のリハの時、歌詞の代わりに適当に本からフレーズを持ってきたら阿部薫の話で、そのままバンド名にしてしまったと言っていました。大変素晴らしかったです。

 

==リンク

Zoomin'Nightレーベル。代表作は、中国の実験音楽を集めたコンピのこちらでしょうか

zoominnight.bandcamp.com

 

チリのギタリスト、クリスティアン・アルベールの録音集

zoominnight.bandcamp.com

 

作曲作品も出ています

meenna.bandcamp.com

 

以前にやっていたバンド、Not in catalog

notincatalog.bandcamp.com

 

Kaoru Abe No Futureのページ

https://site.douban.com/kaoruabenofuture/