リモートの祝祭 コロナ・インプロ・セッションズ

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9月のアルスエレクトロニカ・フェスのためのリハーサル風景。リモートでおこなわれている

はい、また少し更新がおそくなりました。今回は、いわゆるリモートでのインプロヴィゼーションについて書いてみようと思います。対象は、ズバリ「コロナ・インプロ・セッションズ」。

このイベントは、前回、前々回と書いているハンブルクのシーンで、ティース・ミュンツァーさんという方がいるのですが(パジャマオペラの共同主催者でもあります)、その方の企画です。で、9月にあるアルス・エレクトロニカ・フェスティバルに、このイベントで参加するということで、これまでの記録を見たこともあって、少し書いてみようかと。

 

ホームページがあるので(https://www.thiesmynther.com/)、そこから説明を見ますね。まずミュンツァーさんは、ハンブルクを中心に活動する音楽家です。もともとは90年代にパンクバンドをやっていたようで、それから映画音楽や、近年ではロシアなど欧州各地でシアターピースを制作しています。最近では、「ムーンドッギング」と題したインスタレーションも作っていて、先日、街中でパレードをしたそうです。

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先週おこなわれた「ムーンドッギング」でのハンブルクの街中のパレード

で、この「コロナ・インプロ・セッションズ」ですが、今年にはじまった、いわゆるリモートでの集団即興ですね。きっかけはもちろん自粛期間。どうも記録によると、3ヶ月間、毎週日曜日に、知り合いのミュージシャンやパフォーマーが集まって、オンラインでパフォーマンスを続けていたそうです。3ヶ月毎週というのは、なかなか蓄積がありますね。

ちなみに、一度、その現場というかライブに立ち会ったことがあって。ズームで行われていました。参加者は10名ちょっとでしょうか。映像があるので、こちらをどうぞ。

 

Latency Now excerpt_1 from Anat bendavid on Vimeo.

 

 そういう感じですね。ご覧になるとわかりますが、最初はうごく図形楽譜です。それを演奏者がリアルタイムに読み取って、演奏していく。そのあとは完全即興ですが、音楽の演奏だけでなくて、パフォーマーというか、ダンスをしたり、画像を操作したりしている人たちがたくさんいます。また、音楽についても、声とか歌とか、言葉とか、そういうのが多いですね。映像は途中で切れていますが、実際は45分ほど続いていて、一人、ワードで文章を作っている人がいると思うのですけど、だんだんその文章をみんなで歌いながら読むとか、そういう感じになっていって終わりました。

 

このライブというか、実際に見たわけですけど、リモートで行われたものとしては、かなり本格的なというか、「インプロのライブ」というのを体験できたという感じがありました。かなりまれな印象ですね。なかなか面白い。

もう少しつっこんでみましょう。一つの特徴は、画面が切り替わることだと思います。ズームで、全員の映像があるわけですけど、かなりのスピードで画面が切り替わっていて、メインの(画面共有など)大写しになったり、全員が散ったり、図だけが出てきたり。あと、パフォーマーそれぞれが大写しになることがありますね。

これは、こうした画面のスイッチングをする人が、一人いたようです。その人は、たぶんパフォーマンスはしていなくて、画面の調整だけをしている。なので、この切り替えは意図的というか、おそらく即興の一部というか、作品の一部ですね。そういう、リアルタイムでの画面の作り方があります。

 

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パジャマオペラ初回でのミュンツァーさん。主催者の一人でもあります

で、これがなかなか面白くて。つまり、音楽の即興のようでいて、実際に見ていくと、画面全体の即興というか、映像でもあるし、その映像の統合の仕方もどんどん変わっていく。そういう何重かになっている映像の即興なんですね。で、その中で、それぞれのパフォーマーが、パフォーマンスをしている。

これは、ズームならではの使い方で、大変に興味深く思いました。ちょっとナムジュンパイクというか、マルチメディアアートぽいですよね。

 

もう少し音楽面にふれてみると、ここで特徴的なのは、とにかく声(歌)の多用ですね。いきなり全員がしゃべっているような感じに近い。とりわけ数人、明らかにプロの訓練を受けたとおぼしき人が歌ったりしゃべったりしていて、まるで即興的なオペレッタのようです。音質も、おそらく性能のいいマイクを使っているのか、たいへん良く聞こえますね。音質については、電子音はズームで聞こえやすいので、ここでも電子音が良く聞こえますね。

で、この声の多用というのは、個人的にはたいへんに面白いところで。というのは、ここ5年くらいでしょうか、アジアン・ミーティング・フェスティバルを見たり、あと福島でのイベントを中継で見たりしていると、即興演奏(とくに集団即興)での声というのが面白くなってきたんですね。アジアの音楽家たちは、結構平気で歌いますし、その場で、伝統的歌唱だったりロックぽかったりするメロディを作ることができます。

なんでこれに注目するかというと、いわゆる欧州というのでしょうか、欧米というのでしょうか、英米というのでしょうか、「フリー・インプロヴィゼーション」のシーンでは、歌う人というのはとてもまれなんですね。実は、その理論的な元祖であるデレクベイリーは、演奏しながら良くしゃべったりしているんですけど、そのあとは、そうした人はいなくなって。静かな室内で、黙々と楽器を演奏しているという人がほとんどを占めます。(ちょっと例外として、ウィーンを拠点にするトランペッターのフランツ・ハウツィンガーのプロジェクトを貼っておきます)

 

 

ですけど、そのデレクベイリー含めて、やはり声というのは、非常に大きいものではないかという、これは個人的な関心があります。そして、アジアの人たちや、お祭りなどで、不意に歌いだす人たちを見ると、とても感動するんですね。

そこで、こうした声を使う、というのを見て、それもなかなか面白いなと思いました。恐らくですけど、ずっとやっているうちに、一つの手法として確立したのではないでしょうか。全く違和感なく歌っていますよね。(下は、晩年、手の病を乗り越えて録音されたデレク・ベイリーの作品から。『説明と感謝』というタイトルです。はじまって少しすると、しゃべり始めます)

 

とりあえず、パッと思いついた感想は、そういうところですね。つまり、マルチメディア・パフォーマンスとして、画面内のウィンドウ自体が動くというところでも、多層な即興ができていること。また、非常に声が用いられていて、やかましいほどに歌い、しゃべっていること。まるで、演劇とオペラのあいだを行き来するようなシステムです。これが、即興セッションとして行われているところが、また面白いですね。

ズームなどを使ったリモート演奏というのは、今年いろいろと試みられていると思うのですが、その一つの参照として、この辺りが興味深いと思いました。

 

最後に、もう一つだけ付け加えると。全体を見ていると、これがとてもドイツの、というか、英米のパフォーマンスとは違う、例えばシュトックハウゼンのオペラとか、ああいうサイケでゴテゴテして、みんな喋るし蹴るし演奏もしているという、あの感じを、強く抱いた次第です。これはちょっと当て勘なのでわかりませんが、もしかすると、英米系のインプロなどとは違う、(あえて言うとドイツ語圏の)インプロのあり方が、ここに顔を出しているのかもしれません。少なくとも、そのインプロの仕方はズームとはとても相性がいいようです。

ということで、インターネットが当たり前になった2020年に、ちょっと面白かったインプロの話でした。今後のイベントも楽しみです。