遠い音楽

こんにちは。たまには、最近つくっている音楽について、書いてみようと思ったので、書いています。前回の、ハンブルクを拠点にしたリモートコンサート企画「パジャマオペラ」から派生して、これまで4つほど作品の形をしたのがありますので、ちょっとまとめてみましょう。

まず最初は、3月に、その「パジャマオペラ」内で演奏されるためにつくった、「Tele-Call」です。この企画では、おのおの1曲1分の曲を提供するものでしたので、これも約1分ですね。曲の発想は、このときヴァイオリニストのドン・ゾーさんが、コロナ禍の状況について「ほしのこえ」(新海誠)をあげて論じていたとこから、来ています。「ほしのこえ」はSFアニメですが、交流のある一人が非常に遠い場所に行ってしまい、連絡をしても異様な時間がかかる。もう一人は、その交信を待っている、という状況が描かれます。コロナで、自粛を余儀なくされた、リモートにならざるをえなかった状況と重ねてそれを取り上げていました。そこから、モチーフは通信で、サインウェーブとピアノのためのトラックを作りました。

構成は、シンプルなサインウェーブのループに、真ん中で断絶があり、信号音がほんのわずか流れて消えていく、というもので、不安定な交信を表現しています。これに、激しいピアノの即興をお願いして。ピアノ即興は初めてだったそうですが、やってみたところ、思ったよりもこれは好評で、それで次作以降もできることになりました。こちら。

 

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そこから、もっと発展させようということで、次に「Tele-Path」というのができました。これは4月ですね。同じく「パジャマオペラ」内で演奏されることを目的に作っています。もともとは「Tele-Message」というタイトルでしたが、改題されています。

こちらの曲想は、具体的な手がかりはなく、前作に引き続き、通信・交信のモチーフを出そうということだけ決めて、あとは好きに作ってあります。特に、一度やってみたかった持続音でのノイズ、というのを実際にやってみたところもあります。参照するために聞いたのは、ケージのナンバーピースと、ラディーグの器楽作品ですね。ヴァイオリンは、2つほど録音して、それをバラして一つにくっつけています。

それで、実際にリモートコンサートでも演奏したのですが(かなり爆音でやったので、耳を押さえている人もいました)、そのあと、これに動画をつけてみようということで、映像を持ってきて、編集してみました。交信ということで、「空」だろう、というわけで。空を一発撮りしてあります。ちなみに、これを編集している間に、通信や交信というテーマが自分の中で膨らんできて、哲学者マッシモ・カッチャーリが「我々はテクノロジーを使って天使のように交信しているが、天使ではないので実際は肉体に閉じ込められたままだ」というような現代都市のイメージ「天使都市」などがモチーフに浮上してきました。皮肉というか、逆説的なというか、そうした都市の姿で、これについては今も関心を持っています。

というわけで、「テレパス(交信)」と「遠い道」の両方を意味する「Tele-Path」はこちらです。

 

 

 

 

さらに。ここまで来たら、もうちょっとやろうということで、サインウェーブのトラックに、自由にヴァイオリンの即興をしたものも作りました。それが「Tele-Tone」です。ここではドンゾーさんのヴァイオリンが炸裂していて、初めてこういう即興をするんだと知ったところもあるのですが、特に終盤、弓を二本もって演奏するところは、低音と高音のうねりが二重になっていて、なかなかに強烈です。映像を編集してほしいということで、無理にカットアップして、けっこう独特な感じになったと思います。

 

 

 

そして。現時点で最新のものは、「Tele-Vision」。7月中旬に公開されました。これは、フィールドレコーディングのミックスに、ヴァイオリンの即興が合わさった、ミュージックコンクレートというべきか、サウンドスケープというべきか、そうした作品です。これまではノイズもやっていたわけですが、どうせなら他にも、ということで、フィールドレコーディングに取り組みました。海辺と鳥、足音をミックスして架空の風景を作り、それにヴァイオリンが即興で合わせています。映像も作ろうということで、こちらはどれもPC画面を撮影したものから構成して、バラバラの映像が架空の風景をつくるようにしてみました。最後は、文字も入れてみて。音では描かれていないですけど、空や太陽などが、聞いている人の脳内で展開すると面白いかなと思ってやってみています。ではどうぞ。

 

 

 

ということで、3月から7月までですね。最後の「tele-vision」は、トラック作りから音源作成、映像作成、と段階を踏んでいるので、少し間が空いていますが、これらは一連のものとして、ずっと作ってきています。通信・交信がテーマで、音楽的には持続がベース、ただし意外にいろいろなジャンルというか方法論を試していて、まあ、なるべくどこかは実験的な部分が含まれれば、と思っています。これらは、どれもリモートで、遠い場所で作られました。音が空気を震わせて体感する、といったものとは、かなり違うところで作られています。それがどういうものかは、もう少し試していきたいと思いますね。

はい、そんなところでした。続報あれば、またおしらせします。