2018年、台北、夏

そういえば、これまでの記述の中で去年の夏の話が抜けていたので、簡単に書いておこう。去年の夏、アジアンミーティングフェスティバルがあるということで(気分としてはそれに便乗して)台北に行った。初の台湾。覚えている範囲で書いてみよう。

 

全体として、とてもバタバタしていた。

予約からして、開催1ヶ月以上前にイベントが満席という情報があり、困ったのですでに知り合いだったシェリルさんに連絡して、一枚とってもらった。彼女は1日目に出演するのだが、取れたのは2日目だけで、しょうがないしょうがないと互いに言い合っていた。

それから宿泊や飛行機も、渡航半月前ぐらいに一気にやろうとしてバタバタ。適当にやろうかと思っていたら、またシェリルさんから、トレジャーヒル・アーティストビレッジに宿泊所がありオススメ。と言われたので、予約する。予約したら、認可に2週間かかるということで、本当に宿泊できるかはギリギリまで不透明のまま渡航した。

 

事前の知識もほぼない。友人に直前に会い、歴史と地理、諸々の感覚について、一通り聞いた。蒋介石記念像と228平和公園の話も聞く(これは実際に行って、行った価値があったと思う)。とはいえ彼は観光的な情報だけなので、僕は、例によって、できれば普通の暮らしの目線を少しでも感じたいと思った。

 

渡航。飛行機はチャイナエアライン。4時間ほどで着く。駅で両替、車内で旅行ガイドを開いて、携帯で宿泊先のトレジャーヒルを探す。

最寄駅は、公館。すぐ目の前に、国立台湾大学がある。そこから右に曲がり、5分ほど歩くと、いきなり都市が切り取られて、落ちくぼみ、そこに森が埋め込まれているような場所があらわれる。古い民家の街区をそのまま残した、宝蔵巌国際芸術村の姿だ。

入り口には巨大な道教寺院。その門をくぐらないと中には入れない。見たこともない龍や諸々の神仙の像の中を進み、細い道が左右にいくつも広がる。一番奥が、予約していた宿泊所だった。無事空いていた。個室。喫煙は不可。だが居心地はいい。

 

荷物を置き、都市中心部の中山記念堂へ。ここでイベントがある。行く途中、雨がぱらつく。到着すると、大友さんとアンサンブルズ事務局の田村さんがいて、挨拶。「よく来たねえ」という言葉があるかと思ったが、来たのは「やっぱりコレ(雨)だよ」という田村さんの言葉。大友さんが雨男だということを意味しているのだった。大友さんは、これからのイベントよりそちらを気にしているようにさえ見えて、笑っていいやら複雑な気持ちを抑えて「雨ですねー」とかいう。

オープニングは、入り口広場でコンダクションのはずだったが、エントランス内部で行うことになったようだ。建物の中に行ってみると、階段に小柄で細い女性が座って携帯を見ていた。おそらくそうだ、と挨拶をする。シェリル・チェンにここで会う。ややナーバスに見えた。

まずチケットをもらい、友人というアーティストとだらだら話す。2週間ほど前にあれこれと連絡したフリーインプロビゼーションについて、彼女はすでに自分のものにしているようだった。どうなるかは、やってみないとわからないから、という。サムズアップをする。

コンダクションの時間。髪を縛った長髪の男性が参加していたのが印象的だった。あとは、アリスチャンが参加しており、声とリズムが、かつてないほど複雑かつマッシブに往還する音を作り出す。感動した。

 

この日は、これ以上はチケットがないので、帰る。大雨。さらに大雨。公館に戻ると土砂降りで、トレジャーヒルは果てしなく遠い。門をくぐり、鬱蒼とした木々の中の細い坂道をひたすら進む。ずぶ濡れになる。どうやら、この日は台湾でも記録的な大雨だったらしい。この日の雨のせいで、これ以降、トレジャーヒルについて語るときは、僕にはこのシュールな空がひっくり返ったような体験と切り離すことができなくなってしまった。(続)