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 これを書いているのは5日だが、順調に行けば明日6日に台湾のデジタルアートにかんする雑誌『ノー・マンズ・ランド』に、去年バンコクビエンナーレで参加した作品と、その文章が掲載される。ミュージックコンクレート作品で、文章は中文と英文。明日は忙しい予定なので、いま書いておく。

掲載されるのは、lolololがオーガナイズしたオンライン・パビリオン「フーチャータオ」の抜粋の一つとしてだ。昨年の7月から9月末まで、順次ホームページに更新され、合計50近いアーティスト・ユニットが参加した。その成果の一部は、11月に台北のギャラリーで実際の作品として展示が行われ、シャ・リンの映像作品、シェリル・チェンの植物と機械でできた音具、ナックス・コープのVR作品と、パビリオンの図像展示から構成された。正確な数はわからないが、実際に聞いたところでは予想を大きく上回る来場者があり、好評に終わったという。会期中には簡易ながらシンポジウムも開かれ、美術評論家の評論と討論などもあったらしい。

また、この一部を持って、彼らは現在実際にタイを訪問しレジデンスしており、夜通しの屋外上映や演奏をすでに行い、これから新しいプロジェクトに着手するという。

 

少し主観的な要素が強いので、ここで客観的な説明をくわえておこう。lolololは台北を拠点にするメディアアート集団で、設立は2013年前後のようである。中心はシャ・リンで、映像系のエンジニアでありつつ、身体芸術に関心を持っているらしい。またシェリル・チェンは、北京・NYなどで学生を、英国で修士を経て、北京などでキュレーターとして活動しつつ、台北に拠点をおいた。現在は台北タイムズの記者も兼ねながら、エンジニアリングのスキルも生かして生体=工学的なパフォーマンスを行っている。

この二人が現在の中心メンバーだが、実際にはもっと様々な人を含み、その全体は少なくとも10人程度のコミュニティで運営されているようだ。当初の関心はインターネットアートにあり、2010年代の前半には、海外からネットアートの作家を招聘した企画を行っている。また、ネットアート&カルチャーの代名詞であったヴェイパーウェイブをコンセプチュアルに拡大させたイベントなども行っていたようで、新進若手のネットアーティストというところだったと想像される。

こうした過程のなかで位置付けると、フューチャータオは、その彼らが、はじめて自らの方法論と表現を示した企画だったと言えるだろう。それは、個人的な活動をのぞけばおよそ5年ほどのブランクを経て、むしろ焦点を当てたのは道教であり、そしてその文化ーそこには太極拳や気功から漢方、祭儀、仙人などの神話や物語も含まれるーを基礎に(シェリルチェンはそれらをある種の「テクノロジー」だと言っている)、現代のテクノロジーと接合した美学を模索展開していくもの、と総じて言えるだろう。

 

このような大きな変化、とくに5年のブランクとその間でのテーマの転回は、後から知っても驚くべきものだと思う。この間、彼らは実際にコンセプトを模索する一方で、いわば自分たちの足元の文化に注目することに転じたのだという。とりわけ、ある一つの問題系として、二項対立が溶け合うタオのイメージに注目しながら、実際に台北の公園で行われていた太極拳の早朝トレーニングに参加した。だから、上記の展示が終わった時、彼らがSNSで表明した「それは公園で始まり、そこから広がっていったのだ」というのは嘘ではないし、また戯言でもないと思う。そこからおよそ5年の期間を経て、彼らは、西洋からも、あるいは日本からもとりこぼされている文化的なリソースを見出し、展開するすべを見出したー道教的なものを。

 

この、リアルで、身近で、日常的な文化的営為への参加と、他方で抽象的な理論ないし論理の融通無碍な絡まり合いが、この展示の魅力の一つである。実際、シェリルチェンのテキストには、哲学者ユクフイの議論が援用されーそこではエネルギーの取り扱いをめぐるハイデガーおよび形而上学批判から、西洋の思考をはみ出して存在する中華文化圏の思考様式への再注目が促されている。あるいは、だから僕自身も、そうしたところから、西洋における電気と生体の文化史を辿り、エジソン・テスラからフランケンシュタイン、そして最近のエレクトロマグネティックな美学を経由したのち、そのありえたかもしれない中華文化での展開を記してみた。幸いにも好評で、良かったと思う。

 

少し堅苦しい説明になったが、柔らかくいえば、その中には、性格からある種のスピリチュアリズム的な要素から、非常に具体的な太極拳の早朝練習のユーチューブ動画までが入り混じっている。よければ目を通してみれば、今のアジアの、あるいは今の若手の、あるいは台湾の、アートに触れ、理解する一助になるとおもう。

 

 

オンラインパビリオンのページはこちら

https://lololol.net/