デジタル世界で距離をこえて共有すること [___]について

f:id:ohwaku:20210325221513p:plain

ライブ画面。縦横3列ずつ、9つのコーディングが並行して行われる。画面はさらにそのスクリーンを、サンダーソンのいるギャラリー壁面に投影した映像が流された

 

先日、[___]というイベントを見ました。オンライン、フェイスブックのライブ上で、主催は香港のエドワード・サンダーソン、演奏は中国(メインランド)出身の三人で、Li Song,  Jia Liu, Shuoxin Tanです。三人はいずれもイギリスやドイツ在住で、距離が離れている。予告では「a collaborative algorithmic music performance」とされていました。なかなか面白く、かなり興味深かったので、メモしておきます。

ちなみに、サンダーソンはここ数年、中国(メインランド)の実験音楽・即興シーンについて、観客であるとともに短いレビューなどで知られています。イギリス出身ですが、数年前から香港の大学院に籍を置いて、中国の実験音楽電子音楽についての博論を準備しています。

演奏者のうち、リソンについては、個人的に知っていて、3年前ほどに彼が観光旅行に来た時、渋谷でお茶をしたこともあります。在イギリスで、ソフトシンセや振動する物を使った即興なども行っています。ヤンジュンとも共演したり、元不失者のキヤス・オーケストラの熱心なファンでもあります。あとの二人は、女性でしたが、知己ではありませんでした。少しずつコミュニケーションを深めていければと思います。 

 

さて。

内容は、画像を見てもらえれば分かりますが、モニタ上に、幾つかのライブ・コーディング(直接に打ち込んで音を操作する、シンセみたいなものです)が、並列でならんでいます。そして、それを遠隔で演奏する、というものですね。これが、大変おもしろかった。

もう少し細かく見ると、三人は、それぞれ横に並んでいて、左・真ん中・右と、担当が分かれていたようです。また、それぞれは縦に3つずつ、コーディングのシンセを並べていますね。ですので、合計9個のシンセが並んでいるわけです。

音の操作は、かなりシンプルになっていて、数字を打ち込むと、音が変わるようです。また、どのシンセに数字を入れるかは、かなり自由度が高いようで、他の人の担当のところでも数字を入力できたかもしれません(要確認ですけど)。

 

f:id:ohwaku:20210325221741p:plain

開始当初の画面。コーディングはまだ上2列のみで、次第に追加された。左隅ではいわゆるスレッドのように演奏者による「遠隔でのコミュニケーションとは何か」ということについてのやり取りがなされている

それで、特におもしろかったのは、このようなシステムを作ることで、三人が、遠隔にいても、相互に即興的に音楽を作っていけたことですね。つまりリモートで、インタラクティブで、インプロヴィゼーションをやっている。

これは、これまでこの1年で様々な取り組みがありましたが、かなり画期的なことのように思います。特にリモートについては、どうしても遠隔によるタイムラグがあるので、ズームなどを使った即興では困難がありました。ネット越しでの即興演奏というのは、実は想像されるよりもかなりむずかしいということがわかった一年であったと言っても、言い過ぎではないかもしれません。

そして、ここでは、それが回避されています。どうして回避できたかというと、画面を見ればわかるというか、画面そのものを三人が共有しているシステムを作っているから、ですね。言い換えると、通常ズームなどでも画面共有はできますが、一人分の画面を全員が共有するのが一般的で、三人が同時に介入できるような画面共有はなかなか難しいと思います(ズームはその点で、あくまで会議用のシステムなのでしょう)。しかしここでは、三人が同時に操作できるシステムを、作ってしまった。

また、コーディング/ソフトシンセという形で、完全にデジタルな楽器に転換していることも、大きな特徴だと思います。そのことによって、アナログないしアコースティックな楽器が必要とする空間(楽器の響きは空間で生じるので)や、それにともなう音質のずれ、時間のずれが、一気に解消されています。

裏を返せば、ここでは、アコースティックの持つ力や、身体性のようなものは、消去されています。それによって、通常は困難である、距離をこえた、遠隔での集団即興パフォーマンスが可能になった、とも言えるでしょう。

 

おそらく、ここで捨てているものは大きい。ですが、そのことによって、可能となる領域の拡大へと一歩を踏み出したように思います。内容は、下にリンクを貼りますが、かなり充実していて面白かったと思います。

 もう一度いいかえてみるなら、彼らがやったことは、ライブ・コーディングをネットワーキング・ミュージックの仕様に変換したこと、となるでしょう。もっと言い換えるなら、彼らの楽器は彼らの手元にあるのではなく、デジタル空間上にあって、それゆえに、お互いに離れた様々な場所から一つの演奏ができるようになったのだと、言ってもいいと思います。

それぞれが違うタイムゾーンにいて、昼だったり夜だったり、ほとんど地球を一周するほど離れているわけですが、彼らはライブコーディングのシステムを共有しています。ただし、それはどこかに物質的にあるのではなく、デジタル世界の中にあって、インターネットを介してそれを全員が共有する。それによって、遠隔地での同時・相互干渉的で即興的なパフォーマンスが可能となった。そのためにアナログな場所や空間や響きを捨てて、一方で同時的な共演を獲得できた、ということになると思います。この辺りが、とても面白いと思いました。

 

小さいイベントでしたが、ライブ動画の観客にはセドリックやロルロルロルもいて、なかなか注目のイベントでした。また内容もそれにふさわしいように思いました。

ということで。新しい試みが、まだ続いていることを知って、とても面白かったイベントでした。

 

リンク

www.facebook.com