テレパスとSyrpheとベイルートのこと。

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少し前ですが、新曲が出たので、備忘録を兼ねて。

ドイツ在住のセドリック・フォーモントが運営しているレーベルSyrpheから、4枚組のアルバムが出ました。タイトルは「Retrieving Beirut」。少し前ですがベイルートで起きた大規模な爆発事故のケアのための、ベネフィット企画です。ここに、ドンゾーさんとのデュオ「Tele-Path for violin and noise」を寄せています。

syrphe.bandcamp.com

 

少し説明を。セドリックは、コンゴ出身で現在ベルリンに在住。元はパンクロックをやっていたようですが、近年ではアジアやアフリカ各地の音楽、と言っても伝統音楽ではなくてバリバリの現代的な、ノイズや電子音楽をリサーチして、コンピを作ったり解説の本を書いたりしています。アジアのノイズを扱った「Not Your World Music: noise in South East Asia」は、音源集と大部の書籍で、アルスエレクトロニカのグランプリを獲得しました。「お前の考えるワールドミュージックとかじゃない」というタイトルは、しばしばアジアというと伝統音楽を思い浮かべてしまいがちな私たちの思考に、ガツンと来る感じがよく表れていると思います。

syrphe.bandcamp.com

 

他にも、アジア各地の電子音楽集も出していて、ここでは女性の電子音楽家の作品が多数収められています。これも大変に美しいアルバムだと思います。

syrphe.bandcamp.com

 

さらに今年1月には「Alternate African Reality – Electronic, electroacoustic and experimental music from Africa and the diaspora」と題する、アフリカ各地でリサーチにもとづく音源集も出していて、全32曲、かなり膨大な電子音楽が収められています。

syrphe.bandcamp.com

 

それで、このSyrpheから、ベイルートの事故のあと、急遽、ベネフィットアルバムを出したいという情報が出てきて。そこに寄せたのが上記の作品です。このアルバムも、これまた大部で4枚組。全部で8時間以上あると言われています。それぞれ、ゆるいジャンルに分かれていて、ノイズ、実験音楽、ビートもの、アンビエントなどです。参加しているのはセドリックの人脈によっているところで、インドネシアなど東南アジアから、中東、アフリカ、欧州など各地から音楽家が作品を寄せました。アカデミーからノイズまで、なかなか面白い内容です。(ちなみにセドリックは全曲のミックスもやっていて、8月初旬にオープンコールをしてから7日に出すまで、ほぼ徹夜で作業をしていたようです)

 

ここに寄せたTele-Pathと言う曲は、以前にネットワーク企画「パジャマオペラ」のために作った作品の、再ミックスになっています。もともとかなり爆音かつ高音のノイズ作品でしたが、YouTubeでの映像に際しては音量ちいさめにしていて。それを元に戻しました。パジャマオペラでこれは公演されましたが、聴衆が耳を押さえていた風景はなかなか忘れられません。その元のものに、戻っています。幸いにしてセドリックも気に入ってくれたらしく、「Wire」のミックス集にこれを挙げてくれました。この、長い自粛期間で、唯一ちゃんとした形で作れたノイズ/現代音楽だと思っているので、ぜひ試聴をどうぞ。

 

また、このアルバムの収益は(一切利益を取らず)すべてそのまま、ベイルートNGOやボランティア団体、現地の音楽家団体に寄付されるそうです。すでにある程度が、建設支援団体と、地元の音楽組織に送金されたとのこと。よろしければ、そんなところもお願いします。

*4曲目にノイズで知られるデイブ・フィリップスの作品がある、4枚目。なお各トラックごとに詳細なアーティストの履歴とリンクが貼ってあり。様々な音楽家を知る入り口にもなります

syrphe.bandcamp.com

 

はい、とりあえず、そんなところでした。引き続き、続報あれば随時更新します。